高音質レーベルUNAMAS レーベル初となるDSD11.2MHzフォーマットマスタリングによる10タイトルを配信

音響エンジニアとして多数の受賞歴を誇る沢口真生(ミック沢口)さんが主宰する、日本の高音質音楽レーベルUNAMAS。レーベル初となるDSD11.2MHzフォーマットマスタリングにより、10タイトルがリリースされます。

中でも軽井沢・大賀ホールをホームグラウンドに制作された年1回のクラシックシリーズは、本年で6年目を数えます。ハイレゾ・9.1chサラウンドという現在可能なベストのレコーディング技術を使い、大賀ホールの空間を最大限生かした様々な楽曲編成で制作されたアルバムは、[UNAMAS RESOLUTION]と呼ばれ、すべらかで濃密な空気層の中を、響きが幾重にも有機的に絡み合う音響が特徴です。

ぜひご自宅でも、この珠玉の音響をお楽しみください。

 

UNAMASレーベル公式WEBsite: http://unamas-label-jp.net/

 


 


 

大賀ホールの建築音響設計を担当した早川一郎氏による解説

「大賀ホールの響きと音響設計について」 早川一郎(鹿島建設)

 

大賀さんのこと

 2003年初夏、軽井沢大賀ホールの建設プロジェクトが始まった。
 我々プロジェクトメンバーに与えられた要件は、①中規模ながら世界一音の良い音楽専用ホールを作ること ②シューボックスタイプでなく、サラウンド(アリーナ)タイプとすること ③演奏しやすいことの三つである。この要件を満たすため発注者との間で多くの議論が交わされ、その結果、正五角形の平面を持つホールが誕生した。
 発注者は、当時ソニー株式会社の名誉会長を務められていた故大賀典雄さんである。大賀さんは、もとはといえば東京藝術大学音楽部声楽科を卒業後ドイツに留学しバリトン歌手として将来を嘱望された音楽家でもあった。フォーレのレクイエムのCDも残されている。また、カラヤンの大の親友でパイロット仲間でもあり、札幌公演を終えたバーンスタインを自身の操縦する小型ジェット機で東京まで送り届けたなど多くのエピソードがある。 その大賀さんが経営の第一線から退いたのを機に退職金の全てを投じて彼の長年の夢であった音楽ホールを建設し軽井沢町に寄贈したのである。

 

音響設計について

 ホールの音響は、一般的に“親密感“、“音量感”、“やわらかい響き”、“音に包まれた感じ”、“音の広がり感”など様々な言葉で表現されるがこれらに大きく関係する要素に、初期反射音分布と残響時間がある。
 初期反射音とは何か。例えば舞台上で手を叩いた音は、どこにも反射しない音 (直接音)がまず到来する。そのあと天井あるいは壁等で1回反射した音(1次反射音)、さらに2回反射した音、3回反射した音、4回反射した音という具合に次々に反射音が到来する。これらの反射音のうち、直接音到達後およそ0.1 秒までに到達する音群を初期反射音とよんでいる。
 この初期反射音がステージ・客席全体に満遍なく、時間的にもバランスよく、様々な方向から到来するのが良い音響と評価されるコンサートホールの特徴である。この初期反射音の到来状況は、ホールの室形状・寸法によって決まってくる。 従って音楽ホールの音響設計は、座席数などを検討する建築計画の初期段階から並行して始めることが非常に重要となる。
軽井沢大賀ホールプロジェクトでは、正五角形平面の採用にあたり理想的な初期反射音分布が得られるように、ステージ・客席の角度や2階バルコニー席の壁形状や角度、天井の形状などを検討するためのシミュレーションが入念に行なわれた。(例えば舞台上に、浮雲状に吊り下げられた3枚の透明なポリカーボネイト製の音響反射板は、演奏者と前方客席への1次反射音を補うために設置されている)
 他方、残響とは、音源が停止したのちも音が減衰しながら聞こえてくる現象でその音の大きさが60デシベル減衰するまでの時間を残響時間と定義している。
残響時間は、室容積が大きいと長く、天井などの壁体の吸音力が大きいと短くなる。ちなみに吸音力とは、壁や椅子・人体などの音の吸収度合をあらわす指標である。 ところで心地よい音だなと感じる音楽ホールの残響時間は、演奏される音楽のジャンルによっても異なる。例えばクラッシック音楽に限っていえばオルガン演奏は、極端に長い残響時間が好まれピアノ独奏などは比較的短い残響時間が好まれている。
軽井沢大賀ホールは、主にオーケストラ・室内楽演奏を対象演目としていたのでそれらの演奏が最も美しく響くように残響時間の目標値を 1.6~1.8 秒と定め、床・ 壁・天井・椅子の仕様を決定した。
 特に、低音が長く豊かに響くように天井は、石膏ボード総厚 63 ミリと重くし反射壁は高音域がきれいに散乱するよう地元長野県産のカラマツ材の竪リブをコンクリート躯体に直にしっかりと固定した。そして後方の壁は、反射壁と同じ形状の竪リブ面の裏側にグラスウール吸音材50 mmを張って吸音壁とした。ちなみに客席床はコンクリートの上に木製フローリング材を直張りし、ステージはホール音響と演奏そのものにとって至極大切であるゆえに檜集成材の50mm 厚の木軸組床としている。いわゆる檜舞台である。

 

聴感評価について

 こうして建物がほぼ完成したタイミングで音響測定を兼ねて試聴会を行った。試聴会では、軽井沢町民の方々にご参加いただきホールを満席にして東京フィルハーモニー管弦楽団ピックアップメンバーによる弦楽四重奏+ピアノ演奏が行われた。この時の聴感はというと演奏音が若干痩せた感じで、弦楽器がもう少し豊かに鳴ってほしいという印象であった。そこでより豊かな音響を実現すべく吸音壁の一部を反射壁に変更するチューニングを行った。
 その結果得られた残響時間は、満席で1.7 秒である。さて肝心の「音」はどうか?
 試奏会から一ヶ月後にその結果を確認するチャンスが来た。海外オーケストラの演奏会が開催されたのである。
 この時の音の印象は、低音の豊かさがきわ立ちチェロのエッジの効いた音やコントラバスの豊かな低域に私自身鳥肌が立ち感動した。オーケストラのトゥッティ(全奏)も各楽器がよく定位し音の分離もよい。音が自然に減衰する。とにかく素直で聞いていて心地よい。なので、大賀ホールでは、演奏の良し悪しや楽器の音色の特徴が非常によくわかる。もちろん私の耳と脳がそう感じているということである。
 完成後 12 年が経過し軽井沢大賀ホールの音は、柔らかく熟成してきた。外観も浅間山を背景に周囲の緑に美しい佇まいとしてとけこんでいる。多くの著名な音楽家による公演が行なわれる一方、最近では、ここで録音されたCDやハイレゾ音楽ソフトも数多く発売されている。これらを通して大賀ホールのホールトーンを楽しんでいただければ建設に携わったものとして望外の喜びである。

 


 

ライナーノーツ

「大賀ホールとUNAMAS録音」 Reiji Asakura(AV評論/津田塾大学音楽史講師)

 

大賀ホールの音楽性

 私の軽井沢の家は、大賀ホールのすぐ近くにあり、ホールまで数分という立地なので、休みで滞在するたびに、さまざまなコンサートに伺っている。初めて、このホールの音を聴いたのは、ピアノのマスタークラス(有名な演奏家が若手を指導)の時だった。客席はまばらだったから、ひじょうに響きが豊かだったことが、記憶に深く残っている。ピアノの直接音が、五角形の壁に不規則に反射してあちこちに飛び散り、初めは小さな響きが、まるで雪だるまが回転しながら、雪を集めて、大きな塊に成長していくようなダイナミックな響きの生成、成長過程が体験できた。
 響きの美しさは材質が木であること、660席という小さな内容積からも来る。直接音が近くの木の壁に当たり、そこで「木質の響き」を獲得し、そのテクスチャーが、ホール全体に拡散するという、時々刻々に変化する響きのドキュメントを眼前に聴いているようであった。これは客がまばらな時の話で、満席になると、かなり吸われるのだが、それでも、本ホールの特徴の響きの豊かさは失われない。むしろ過度な響きが減って明瞭さ、明晰さが表面に出てくる。
 コンパクトなホールなので、ソロや室内楽に最適なのだが、意外に大編成のオーケストラも素晴らしい。舞台にぎっしりと管弦楽が蝟集し、大丈夫なのか、ボリュームが大きすぎて、破綻しないか?と思ってしまうが、しかし、私が聴いた数多くのオーケストラの響きは、決して過剰な音量感やマッシブ感に陥るわけではなく、密度が高く、低域、内声部が充実した音が聴けた。場所的には一階後方の全体を見渡せる席が、最も周波数的、音像的バランスがよいが、どの席でも基本的に響きが美しく、響きの量と明瞭度がバランスしている。

 

UNAMASの大賀ホール録音

 UNAMASは大賀ホールを録音会場にして、これまでハイレゾ6作品を制作している。それもシンプルな2チャンネルだけでなく、5.1や9.1チャンネルサラウンド、イマーシブサラウンド(立体音場)まで幅広い。世界的に「サラウンド将軍」として令名の高い主宰の沢口真生氏は、大賀ホールの音響に惚れ込み、その優れた音的なテクスチャーを獲得せんがため、斬新な切り口にて毎回、新しい音作りに挑戦している。
 大賀ホール録音第一弾のヴィヴァルディ:四季(2014年)では、楽曲の4楽章それぞれのソロパートで、ヴァイオリン、ビオラ、チェロの各楽器をフィーチャーするアレンジを行い、5CHのサラウンドで収録。それも、大賀ホール全体に拡散する響きを均一に、もしくは、リアチャンネルに集中的に収録するのではなく、5CHの各チャンネルにヴァイオリン、ビオラ、チェロの各楽器を配し、ステージ上で円周的に配置された楽器群の真ん中で、リスナーは全周を聴くという、なかなか現実では実現できないスリリングな体験を可能にした。
 第2弾のバッハ:The ART of FUGUE フーガの技法(2015年)は、水平方向のみならず垂直方向に音場を持つイマーシブサラウンドに挑戦。イマーシブサラウンドとは、「3Dサラウンド」とも称され、今、世界的に注目が集まるサラウンド手法だ。従来の水平方向のサラウンドに加え、高さ方向にチャンネルを加えることで、音楽が生まれ出た環境における立体的な音響を、リスニングルームでも再現しようという試みだ。UNAMASは世界的にはノルウエーの2Lレーベルと並んで、イマーシブムーブメントの最先端を行く。
 「フーガの技法」では、各楽器が放射する音の高さ方向の響きに着目し、トップスピーカー用のマイクを奏者の上に配置することで、音が垂直方向に立ち登る様子を刻明に記録した。リスニングルームで本イマーシブサラウンドを体験すると、床に設置されたメインのスピーカーから楽器が発音した響きの粒子が垂直方向に立ち登る様子が、こと細かに聴けるのである。
第3弾、シューベルト:弦楽四重奏曲、第14番ニ短調『The Death and the Maiden 死と乙女』(2016年)では、トップマイク4本を、ステージの客席側の端に客席を向いて配置し、舞台上で発せられた音が客席に向かって飛び、各所の壁で反射して帰ってくる様子を収録した。
 リスニングルームにて聴くと、近接マイクで鮮明にキャプチャーされた弦楽器が、下スピーカーから眼前にスコアが見えるような明瞭な高解像度な音で発せられ、同時に上スピーカーからの大賀ホールならではの客席方面の豊かなアンビエントが出る。それが空間的に合成されると、これほどの生々しさになるのか。各楽器の醸し出す音が、ハーモニーとなって会場に響き行くさまと、直接音の明瞭さ、明確さのどちらも堪能できた。それはまさに、大賀ホールの「生」の音響が、リスニングルームで再現されたと言っても過言ではない。
 技術的にはホール録音で不安定要素となる電源供給やEMCノイズ対策として、全バッテリー駆動を採用し、大きな成功を収めたことで、その後のウナマス録音の定番技法となっている。ノイズが混入しやすいAC電源でなく、S/Nがよく、音の立ち上がり/下がりの瞬発性に優れるDC電源は、オーディオ・マニアの憧れの的だが、現実には、オーディオ用のDC電源製品は、無い。最大の問題は安全性だ。どのような使われ方をしようと絶対に事故が無いことを保証しなければならない。それを可能にしたのが、エリーパワー社の定置用リチウムイオン蓄電池「パワーイレ・プラス」(1000w容量)。安全性に優れたリン酸鉄リチウムを採用しており、「完璧に安全」が同社のトレードマークだ。そこでマイクプリアンプ、MADIインターフェイスからDAWの録音まで録音システムの電源は、すべてパワーイレ・プラスに賄わせた。少し大型のデスクトップ・パソコンのような形だから、可搬性もよい。普通の100Vコンセントから常時通電しながら、充電が可能だ。

 

DSD11.2MHzは空気感が濃密な音

 さて、そんなこだわりと矜持で録音された、大賀ホールのリニアPCM音を今回、DSD11.2MHzに変換する。DSDは、SACDから始まった1ビット/超高域サンプリング周波数システム。サンプリング周波数が高域に移動すればするほど、ノイズ帯域も高域に移るので、可聴帯域内のノイズが減る。だから、DSDでは、2.8MHzより5.6MHzが、さらに11.2MHzが高音質になる。
 オリジナルの192kHz/24bitで収録されたリニアPCM音も、素晴らしい。私は「ウナマス・リゾリューション」と名付け、直接音、間接音のどちらも解像度が高い音調を愛でているが、DSDはどうか。「フーガの技法」を聴き比べてみた。まずリニアPCMは極めて解像感が高い。音像がひじょうに微細な部分まで、丁寧に描写されている。ホールのアンビエントも、透明感が高い。
 ではDSD11.MHzはどうか。驚いた。同じリニアPCM音源から変換したとはが信じられないほどの違いだ。まず音の構造が「有機的」になった。有機的とは、つまり、音を構成する各要素が緊密につながり、絡み合っているということだ。音場感もひじょうに豊潤だ。楽器から直接音が放射され、次ぎに会場内にきれいな濃密な響きになり拡散していく様子が、2チャンネルであっても刻明に捉えられている。
 リニアPCMでももちろん高解像度にて、透明な響きの飛翔が聴けるわけだが、DSDは響きと会場の「一体感」が独特だ。空気感が濃い、のである。音進行は、リニアPCMが一音一音を刻明にしっかりとした輪郭感で描くのに対し、DSDは時間軸で隣合った音どうしのつながりが、より緊密になり、進行感がより滑らかになる。これも「有機的」と感ずる理由のひとつだ。「滑らか」で「すべらか」という表現もできよう。
 冒頭の単一楽器から始まり、進行するに従い楽器が増え、フーガの対位法的な絡みになる場面では、各楽器の音がしっかりとした輪郭を伴いながら、会場空間にて有機的に融合する様子が、明快に再現されている。音の流れの中に空気密度の粗密が見えるようだ。
 リニアPCMは、ストレートにダイレクトに、音信号をそのまま素直に再生しているが、DSDは「音の付加価値」が加わる。そのひとつが今述べた有機的な音だが、加えて、音色も違う。リニアPCMは、無色透明で、映像的に喩えるならグレイなグラテーションなのだが、DSDは響きに色が着く。赤や緑といった鮮やかな色が私には見えた(色感度は個人差が大きいので、色相の共通性は高くないが)。
 本DSD11.2MHzファイルは、変換ではあるが、DSD的な味わいが濃い。もともとのリニアPCMファイルの中に、音楽再現のための情報量が多く含まれるウナマス録音だから、まるでオセロゲームの白黒大反転のように、一気にDSD的なテイストが現出するのであろう。
 ピュアに、ストレートに、ダイレクトに音の噴出感覚愉しみたいのならリニアPCMを、すべらかで濃密な空気層の中を響きが幾重にも有機的に絡み合う様が体験したい向きにはDSD11.2MHzをお薦めする。